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高い飛跡密度における飛跡再構成アルゴリズム (日本語訳)

arxiv.org

の付録Bの日本語訳です。一部に筆者の意訳を含みます。

原子核乾板は、その高分解能により各フィルムに記録された膨大な量のイベント又は10^ 5 tracks/cm^ 2オーダーの飛跡の陽子反応を再構成することができる。 これは、位置分解能0.4 μmと角度分解能2mradのベクトル情報を持つベーストラックの性質にも依っている。

飛跡再構成の基本的概念は、位置及び角度空間における異なるフィルム上のベーストラックの対応付に基づいている。 広く用いられてきたアルゴリズムでは、2つの連続したベーストラックの対応テストが用いられている。 しかし、DsTau実験のように高い飛跡密度環境では再構成が失敗することがある。 特に、数mrad以内の同じ方向に進む2つ以上の飛跡が数ミクロン以内で接近すると、このアルゴリズムは正しい経路を決定できないことがある。

新しいトラッキングアルゴリズムは、高い飛跡密度と狭い角度広がり環境で飛跡を再構成するために開発した。 複数の経路候補が生じた時、まずは全ての可能な経路を生成する。 図21-(a)の場合、Z _ 1からZ _ 2間で2^ 4=16の可能な経路が考えられる。 それぞれの経路に対して、経路に含まれるベーストラックによって作られた面積の平均に基づいた次のテスト変数を評価する。

 \displaystyle
a^{average}=\left(\sum_i^{n-2}a^{pos}+\sum_i^{n-1} a^{angle}\right)/(n-0.5).

ここで、a^ {average}は図21-(b)で示すようにベーストラックの位置a^ {pos}と角度a^ {angle}で作られる平均面積である。nは経路に含まれるベーストラック数で、-0.5は長い経路に重みを付けるための経験値である。最小のa^ {average}を持つ経路が最良の経路として選ばれる。 この手順を、選択した経路に含まれるベーストラックを取り除きながら繰り返す。

 \displaystyle
a^{pos}=\frac{1}{2}\cdot \left|\vec{AB} \times \vec{AC}\right|

 \displaystyle
a^{angle}=\frac{1}{2}\cdot \frac{\left|\vec{AB}\right|}{2} \cdot \left|(\vec{V_A}+\vec{V_B}) \times \frac{\vec{AB}}{2}\right|

f:id:onsanai:20190731104845p:plain f:id:onsanai:20190731104855p:plain

講演会 川村静児氏「重力波:アインシュタインの奏でる宇宙からのメロディー」質疑応答 @2018年 ぎふサイエンスフェスティバル

会場内でメモしたため間違っているところがあるかもしれません。

Q. インフレーション理論で物理現象(特殊相対性理論)は成立しているのか?
A. 場が広がってるだけなので成立できる。
Q. インフレーションの音はシミュレーションはされているのか?
A. されているが、まだ言わない。
Q. 重さがなくなったのは重力子の質量になったと考えられないのか?
A. 重力波の媒介粒子は質量はないと考えられているので、ほぼ全てがエネルギーになったと考えるのが妥当。
Q. ブラックホール連星では他の情報は出てこないのか?
A. ブラックホール連星の合体では出てこないとされている。中性子星連星の合体では他の情報も出てくる。
Q. 光と重力波は何が違うのか?
A. 媒介する力が違う。また、電磁波はベクトル波、重力波はテンソル波。
Q. 重力子と重力波は同じなのか?
A. 重力波も粒であり波であるから、重力子と考えても良いと思う。

注: インフレーションで発生する重力波はsub-Hz帯なので、実は人間の耳には聞こえないんです。中性子連星やブラックホール連星での合体で発生する重力波は たまたま 人の可聴領域内だっただけなのです。

http://www.city.gifu.lg.jp/17404.htm

川村さん、準備と講演、お疲れさまでした。

原子核乾板の元素組成と密度

更新履歴を含めた情報は、Gitlabで管理しています。参考文献がHatena Blogの仕様で崩れているため、下記のGitlab版も参照してください

gitlab.com

参考文献一覧 ^ref01 ^ref03 ^ref05 ^ref07 ^ref09 ^ref11

原子核乾板の密度と組成について

原子核乾板 (Nuclear Emulsion) の組成や密度を実測することは難しい。 軽元素から重元素までの測定レンジを持つ組成の測定方法は存在しないため、同じ条件で全ての元素組成を測定することはできない。 また、環境の湿度が変化すると乾板に含まれる水分量も変化し、酸素や水素の組成が変化する。 製造工程から推定する方法については、原料の組成は測定しやすいものの、原子核乳剤を製造する工程に水洗工程があり、この工程で何がどれだけ流出したかの推定は難しい。

よくある測定方法

軽元素である水素、炭素、窒素、硫黄、酸素の質量比(通常の装置では水素、炭素、窒素)は、元素分析装置による測定が可能である 1。硫黄についてはその存在比が少ないため、元素分析装置での測定は一般には不可能である。 重元素については、銀、臭素ヨウ素の比はSEM-EDXによる測定が可能である [^ref08]。 定着(FIX)前後の厚みと質量測定により、AgBrIとバインダーの比及び密度を測定することが可能である [^ref08]。

アルファ線を用いた密度測定方法

アルファ線の飛程からエネルギーとレンジ(飛程)の関係式を導き出す方法が最も精度の良い密度測定方法である 2

アルファ線の飛程は約1μmの標準偏差を持つ分布となり、100イベント使えば飛程につく標準誤差は0.1μmとなる。 密度3.5g/ccのPo-212からのアルファ線の飛程は約50μmなので、飛程につく誤差は0.2%となる。この誤差は、密度の誤差に換算すると0.3%相当になる。

この手法で求められる密度は、アルファ線のエネルギーとレンジ(飛程)の関係式を媒介する、換算密度とも呼ばれるものであり、絶対値としての信頼性には議論の余地がある。

原子核乾板の組成および密度

以下、論文等で紹介されている各原子核乾板の組成を紹介する。

Emulsion Ilford G-5

  • Density 3.907g/cc 3
H C N O S Ag Br I
Mass % ^ref02 1 1.4 6.9 1.7 6.9 0.2 47.4 34.8 0.6

50% R.H. 。

[^ref13] の第3表のIlford G-5 の Nが0.67g/ccとなっているのは0.067g/ccの誤記と思われる。 4

Photographic Emulsion (ICRU-215) = Standard emulsion

  • Density 3.815g/cc 5
H C N O S Ag Br I
Mass % [^ref03] 1.4 7.2 1.9 6.6 0.2 47.4 34.9 0.3

Fuji ET-7B ET-7C/D

  • 密度: 3.73 g/cc (Fuji ET-7B)
  • 密度: 3.60 g/cc (Fuji ET-7C/D)
  • 密度: 3.63g/cc (ET-7D) [^ref11]
  • 相対湿度: 68%

結晶サイズ

H C N O S Ag Br I
ET-7D Mass g/cc ^ref09 0.05 0.31 0.1 0.226 0.0067 1.675 1.22 0.034
ET-7D Mass % ^ref09 1.38 8.56 2.76 6.24 0.18 46.25 33.69 0.94
ET-7C/7D Mass % 1 1.5 9.3 3.1 6.8 0.2 45.4 33.4 0.3
Binder AgBrI
ET-7D Volume % [^ref11] 55.0 45.0

Fuji OPERA film

  • 密度: 2.71g/cc 7
  • 密度: 2.84g/cc 乳剤層のみ [^ref11]
  • 密度: 2.77g/cc 乳剤層と保護層 [^ref11]

OPERAの論文(シミュレーションも多分)は全ては密度2.71g/cc と表記されている。桑原氏の値となぜズレたのかは不明。

結晶サイズ

  • 200±16 nm [^ref07]

組成

以下の組成は乳剤層と保護層である。

H C N O S Si Na Sr Ba Ag Br I
Mass % ^ref06 2.4 13.0 4.81 12.43 0.09 0.08 0.08 0.02 0.01 38.34 27.86 0.81
Binder AgBrI
Mass % 33.0 67.0
Volume % ^ref07 69.0 31.0

組成は原料からの計算値である。水洗工程でバインダーが水溶液側に抜ける割合に大胆な仮定が入っている [^ref11]。

OPERAタイプ GIF処方

J-PARC E07実験用の原子核乳剤。組成の参考文献は [^ref11]。

  • 結晶サイズ 200 nm
  • 密度 3.53g/cc
H C N O S Ag Br I
GIF g/cc 0.05 0.326 0.11 0.23 - 1.6 1.166 0.033
GIF Mass % 1.42 9.27 3.13 6.54 - 45.52 33.17 0.94
GIF Atomic % 38.56 21.10 6.10 11.17 - 11.53 11.34 0.20

NのAtomic %を1としたとき、Oは1.83、Cは3.46である。

Nagoya NIT [^ref08]

  • 乳剤層の密度: 3.44 g/cc
  • AgBrの密度: 6.473g/cc
  • ゼラチンの密度: 1.32g/cc
  • PVAの密度: 1.19g/cc

結晶サイズ

  • NIT 44.2±6.8 nm
  • UNIT 24.8±4.3 nm

組成

H C N O Ag Br I
Mass % 1.6 10.1 2.7 7.4 44.5 31.8 1.9
Atomic % 41.1 21.4 4.9 11.7 10.5 10.1 0.4
Binder AgBrI
Mass % 21.9 78.2
Density g/cc 1.29 6.473

AgBrIの分量は原料からの計算値、HとCとNは実測値、Oはそこからの推定値である。

文責: 吉本

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参考文献


  1. 浅田 吉本ら PTEP論文 https://doi.org/10.1093/ptep/ptx076 (2017)

  2. Geant4で伝統的に使われてきたFujiFilm ET-7C/7D emulsion for KEK-PS E373 の組成 元ソースは歳藤氏による

  3. 古関 靖夫 原子核乾板 http://hdl.handle.net/2261/30908 (1959)

  4. 吉田ら NIM論文 https://doi.org/10.1016/j.nima.2016.11.044 (2016)

  5. SRIM ソフトウェア http://www.srim.org/

  6. 桑原謙一氏・吉本 private communication

  7. Photographic Emulsion (ICRU-215) https://physics.nist.gov/cgi-bin/Star/compos.pl?refer=ap&matno=215

  8. 中村琢ら NIM論文 https://dx.doi.org/10.1016/j.nima.2005.08.109 (2006)

  9. L. Patrizii ら JINST論文 https://dx.doi.org/10.1088/1748-0221/3/07/P07002 (2008)

直交座標から球面座標系(極座標)に変換するときの誤差伝搬

Error propagation when converting from rectangular coordinate system to spherical coordinate system

飛跡のベクトルが次のように得られたとする

Assume that a vector of trajectory is obtained as follows

 \displaystyle

V_x = x \pm \delta x \\
V_y = y \pm \delta y \\
V_z = z \pm \delta z \\

Range、Theta、Phiは次のようになる

Range, Theta, Phi are as follows

 \displaystyle
Range = r = \sqrt{x^2+y^2+z^2}\\
Theta = \theta =  acos(z/r)\\
Phi = \phi = atan(y/x)\\

ただし、C++の実装では、下記を使ったほうが良い。

 \displaystyle
Phi = \phi = sign(y)\times acos(x/sqrt(x^2+y^2))\\

誤差伝搬を計算すると誤差は次のようになる

By calculating the error propagation, the error becomes as follows

 \displaystyle
\delta r = \frac{ \sqrt{  (x\,\delta x)^2+ (y\,\delta y)^2+ (z\,\delta z)^2 }}{r} \\

\delta \theta = \frac { \sqrt{ (x^2 \, \delta x^2+y^2 \, \delta y^2)z^2      + (x^2+y^2)^2\delta z^2    }    }                {r^2\sqrt{x^2+y^2}}\\

\delta \phi =        \frac{\sqrt{(y \, \delta x)^2+(x \, \delta y)^2}}       {x^2+y^2}

検索用

参照

Derivative Calculator with Steps

 \displaystyle
x = r \sin\theta \cos\phi \\
y = r \sin\theta \sin\phi\\
z = r \cos\theta\\

Rangeを1に規格化するとき、

 \displaystyle
\delta x_{norm} = \sqrt{ (\cos\theta \cos\phi \cdot \delta \theta)^2+(\sin\theta\sin\phi\cdot\delta \phi)^2 }\\
\delta y_{norm} = \sqrt{ (\cos\theta \sin\phi \cdot\delta \theta)^2+(\sin \theta\cos \phi \cdot\delta \phi)^2}\\
\delta z_{norm} = \sqrt{(\sin\theta \cdot\delta \phi)^2}\\